横浜市立図書館は18区に1館ずつ。青葉区にあるのは、あざみ野の山内図書館だけです。ただ「本を借りられる場所」を数えると話が変わります。区内には市立図書館とは別に、2万8千冊を持つ青葉台コミュニティハウス「本の家」があり、地区センターの図書コーナーが6か所、学校を開放した市民図書室が6か所あります。そのうえで、予約した本を受け取れる「図書取次拠点」は市内12か所のうち7か所が青葉区です。始まりは2004年の区民意識調査でした。
横浜市立図書館は中央図書館と17の地域図書館で、各区に1館ずつ。青葉区だけが少ないわけではありません。ただ、青葉区の人口は30万7千人で市内2位、面積は35.22平方キロメートルで市内2位です。1館がカバーする人と土地は市内でも広いほうになります。
予約した本を地区センターなどで受け取れる「図書取次サービス」の拠点は、令和8年9月時点で市内12か所。そのうち7か所が青葉区にあります。残り5か所が他の17区に散っている計算です。
2004年度の青葉区民意識調査で「日常生活で不足・不便と思うこと」の1位が図書館でした。区役所はそこから動き、2005年に市が尾駅へ図書返却ポストを設置します。図書館カードで扉が開く仕組みは全国初でした。
「青葉区には図書館が1つしかない」。そう書き出すつもりで調べはじめました。人口30万7千人の区に1館なら、少ないと言えそうだったからです。
ところが横浜市立図書館の一覧を見ると、18区すべてが1館ずつでした。中央図書館が西区にあり、あとの17区に地域図書館が1館。青葉区だけが冷遇されているという話ではありません。書き出しが成立しなくなりました。
そして、もうひとつ間違っていました。「図書館が1つ」というのは市立図書館の数であって、本を借りられる場所の数ではありません。
青葉台駅から歩いて数分のところに、青葉台コミュニティハウス「本の家」があります。蔵書は2万8千冊。名前はコミュニティハウスですが、もともと1972年に「緑区青少年図書館」として開館した図書館でした。区制が変わって青葉区青少年図書館になり、1999年5月にいまの名前になっています。絵本と紙芝居が充実しているのはその名残です。住所を確認できるものを持っていけば、その日から借りられます。
それだけではありません。区内の地区センターは6か所(山内・若草台・大場みすずが丘・藤が丘・奈良・美しが丘西)で、それぞれに図書コーナーがあります。さらに学校の図書室を地域に開放した「市民図書室」が、鉄小、田奈小、もえぎ野小、美しが丘東小、嶮山小、鴨志田中の6校にあります。これは市内63校のうちの6校で、区別では港南区・金沢区・戸塚区の8校に次ぐ多さです。
つまり「図書館が1館しかない」のではなく、「市立図書館が1館で、そのほかに本を借りられる場所が十数か所ある」のが青葉区の実際でした。
ここから先の数字は市立図書館だけの話です。ただ、いま挙げた場所が後半で効いてきます。
ただ、同じ1館でも中身は違います。青葉区の人口は30万7,343人で市内2位、面積は35.22平方キロメートルで戸塚区に次ぐ2位。人口も面積も上位の区が、他の区と同じ1館です。
山内図書館は延床2,147平方メートル、座席80席。数字だけなら市内の地域図書館では大きいほうで、座席数は港北の109席に次ぐ2番目です。貸出冊数も65万52冊で市内4位、1日あたりの入館者1,298.9人も4位。使われていないわけではなく、むしろよく使われている館です。
それでも区民1人あたりの貸出は2.12冊で、18区の真ん中あたりでした。1位は都筑区の4.72冊で、2倍以上の差があります。よく使われている館なのに1人あたりでは伸びない。単純に、人が多すぎるのだと思います。
山内図書館はあざみ野駅から徒歩3分。駅前という意味では良い場所です。ただ、青葉区の地図でいうと東の端、川崎市との境に近いあたりにあります。
青葉区は東西に長い区です。区の西側、田奈や恩田、奈良町のあたりから山内図書館へ行こうとすると、田園都市線で青葉台からあざみ野まで出て、そこから歩くことになります。奈良町のこどもの国周辺からだと、バスと電車を乗り継ぐことになります。
この立地の不便さは、実は横浜市自身が20年以上前に認めていました。
横浜市政策局が出している調査季報という冊子があります。その第157号に、青葉区役所の職員が書いた報告が載っていました。
2004年度に実施した青葉区民意識調査で、「日常生活で不足・不便と思うこと」の第1位になった項目が、図書館でした。報告はその理由を、山内図書館が区の東部の区境付近にあるという立地条件にあるとはっきり書いています。
区役所は図書館を増やしてほしいと教育委員会に要望を出し続けましたが、新しい館を建てる計画は立ちませんでした。そこで2004年6月にプロジェクトが立ち上がります。建物を建てずに、本に近づく方法はないか、という方向でした。
出てきた答えが、駅に返却ポストを置くことでした。2005年5月16日、田園都市線の市が尾駅に横浜市内で初めての駅の図書返却ポストが設置されます。
駅に本を入れる箱を置くだけなら簡単そうですが、誰でも何でも投げ込める箱を駅に置くわけにはいきません。そこで、図書館カードを読み取って扉のロックが開く仕組みをポストに積みました。報告によれば、これは全国でも初めての方式でした。
いま青葉台駅とたまプラーザ駅にも同じポストがあります。青葉台は改札口のそば、市が尾は改札外の券売機前、たまプラーザは東急ストアの入口付近。年末年始以外は毎日使えます。区内の駅を使う人なら、帰り道に本を返せます。
20年かけて、この方向はさらに広がりました。いま青葉区には、予約した本を受け取れる場所が7か所あります。美しが丘西、大場みすずが丘、奈良、藤が丘、若草台の各地区センター、青葉区区民交流センター、そして青葉台コミュニティハウス「本の家」です。
並べてみると、選ばれた7か所は偶然ではありません。もともと自前の図書コーナーを持っていた施設に、市立図書館の本の受け取り機能を足した形です。本の家は元が青少年図書館で、地区センターにはもとから図書コーナーがある。本を扱うカウンターがすでにあるところに乗せたわけです。市内12か所のうち7か所が青葉区に集まっている理由は、たぶんここにもあります。
ここで数字が効いてきます。横浜市の図書取次拠点は、令和8年9月時点で市内に12か所。そのうち7か所が青葉区です。残る5か所は都筑区、港北区、旭区、戸塚区、港南区に1か所ずつ。つまり17区ぶんを5か所で分け合っていて、青葉区だけが7か所を持っています。
横浜市立図書館のサイトで蔵書を検索し、受け取り場所にこれらの施設を指定して予約する。本が届くとメールが来るので、受付時間内にカウンターへ行く。仕組みとしてはそれだけです。図書館まで行かなくても本が手元に来ます。
移動図書館「はまかぜ号」も区内に2か所来ています。奈良町第三公園と奈良山公園で、どちらも隔週火曜日の午後。市内30か所の巡回先のうちの2か所です。山内図書館から最も遠い奈良町に来ているのは、偶然ではないと思います。
では解決したのかというと、そうではありません。
2025年度の青葉区民意識調査で、住環境の評価を聞いた項目のうち「悪い」「どちらかというと悪い」の合計が3割を超えたものが3つありました。家賃や住宅の価格、魅力的な飲食店の多さ、そして図書館や図書に関するサービスです。2004年から20年たって、順位こそ変わっても、不満の上位にまだ図書館があります。
取次でできるのは、予約した本の受け取りと返却だけです。棚を眺めて、思いがけない本を手に取るということができません。座って読む場所でもありません。
本の家や地区センターの図書コーナーには自前の蔵書がありますから、棚を眺めることはできます。ただ、本の家の2万8千冊に対して山内図書館は19万4千冊で、7倍近い差があります。市立図書館の予約システムから引けるのは市内全館の約400万冊です。「調べ物のために図書館へ行く」という使い方は、やはり山内図書館まで行くことになります。
「図書館が欲しい」という言葉が指しているのは、たぶんこの差です。
その答えらしきものが、2027年春に青葉台駅前に来ます。
横浜市が「ブックス&ラウンジ(仮称)」と呼んでいる新しい形の施設が、青葉台東急スクエア South-1本館の5階に入ることが決まりました。広さは約300平方メートル。本の貸出と返却だけでなく、ドリンクを飲みながら過ごせる閲覧スペースと、親子で楽しめる読み聞かせのエリアが設けられる予定です。2026年度に設計と工事を進めます。
市は取次拠点を2029年までに40か所程度へ増やす方針で、ブックス&ラウンジはその中の上位モデルという位置づけです。取次に「滞在できる場所」を足したもの、と考えると分かりやすいと思います。
面白いのは場所です。5階はフィリアホールの向かい側で、青葉台駅から歩いてすぐ。区の西側に住む人にとっては、あざみ野まで出るより近くなります。20年前に「区の東の端にしかない」と言われた不便が、ここでようやく埋まります。
この20年に青葉区で起きたことを並べると、一本の線になります。
2004年に区民が不便だと言い、区役所が動いた。新しい図書館は建たなかったので、駅にポストを置いた。それが3駅に増え、受け取れる場所が7か所になり、移動図書館が奈良町まで来るようになった。そして2027年、青葉台に座れる場所ができる。
市立図書館の数は、20年前も今も1館のままです。増えたのは建物ではなく、本と人が出会える場所の数でした。もともとあった本の家や地区センターの図書コーナーに、市立図書館の本が届くようになった。既にあるものを使って、届く範囲を広げた20年です。
もし近所の地区センターに行くことがあったら、受付のあたりを見てみてください。予約した本が並んでいる棚があるかもしれません。20年前に誰かが「図書館が足りない」と答えた、その紙の先に置かれたものです。
| 区 | 図書館 | 人口 | 年間貸出 | 1人あたり |
|---|---|---|---|---|
| 港北区 | 港北 | 365,516人 | 656,072冊 | 1.79冊 |
| 青葉区 | 山内 | 307,343人 | 650,052冊 | 2.12冊 |
| 鶴見区 | 鶴見 | 298,235人 | 378,246冊 | 1.27冊 |
| 戸塚区 | 戸塚 | 281,058人 | 646,479冊 | 2.30冊 |
| 神奈川区 | 神奈川 | 254,336人 | 531,432冊 | 2.09冊 |
| 旭区 | 旭 | 239,304人 | 355,333冊 | 1.48冊 |
| 都筑区 | 都筑 | 213,563人 | 1,007,623冊 | 4.72冊 |
| 港南区 | 港南 | 208,539人 | 353,004冊 | 1.69冊 |
| 保土ケ谷区 | 保土ケ谷 | 203,633人 | 447,296冊 | 2.20冊 |
| 南区 | 南 | 198,847人 | 359,185冊 | 1.81冊 |
| 金沢区 | 金沢 | 191,737人 | 474,596冊 | 2.48冊 |
| 緑区 | 緑 | 179,988人 | 547,228冊 | 3.04冊 |
| 磯子区 | 磯子 | 163,626人 | 452,421冊 | 2.76冊 |
| 中区 | 中 | 154,496人 | 258,807冊 | 1.68冊 |
| 泉区 | 泉 | 149,833人 | 388,613冊 | 2.59冊 |
| 瀬谷区 | 瀬谷 | 120,093人 | 264,478冊 | 2.20冊 |
| 栄区 | 栄 | 118,688人 | 442,875冊 | 3.73冊 |
| 西区 | 中央 | 108,553人 | 1,026,686冊 | — |
| 種類 | 施設 | 蔵書 |
|---|---|---|
| 市立図書館 | 山内図書館(あざみ野2-3-2) | 194,004冊 |
| コミュニティハウス | 青葉台コミュニティハウス「本の家」(青葉台2-25-4) | 28,000冊 |
| 地区センター | 山内・若草台・大場みすずが丘・藤が丘・奈良・美しが丘西の6か所(図書コーナー) | — |
| 市民図書室 | 鉄小・田奈小・もえぎ野小・美しが丘東小・嶮山小・鴨志田中の6校 | — |
| その他 | 鴨志田・みたけ台・荏田西などのコミュニティハウスにも図書コーナーや市民図書室があります | — |
| 施設 | 場所 |
|---|---|
| 美しが丘西地区センター | 美しが丘西 |
| 大場みすずが丘地区センター | 大場町 |
| 奈良地区センター | 奈良町 |
| 藤が丘地区センター | 藤が丘 |
| 若草台地区センター | 若草台 |
| 青葉区区民交流センター(旧 田奈ステーション) | 田奈駅の高架下 |
| 青葉台コミュニティハウス「本の家」 | 青葉台(自前の蔵書2万8千冊あり) |
| 種類 | 場所 | 備考 |
|---|---|---|
| 駅の返却ポスト | 青葉台駅(改札口そば) | 年末年始以外は毎日 |
| 駅の返却ポスト | 市が尾駅(改札外の券売機前) | 2005年設置・市内初 |
| 駅の返却ポスト | たまプラーザ駅(東急ストア入口付近) | 年末年始以外は毎日 |
| 移動図書館はまかぜ号 | 奈良北(奈良町第三公園) | 隔週火曜 13:40〜14:20 |
| 移動図書館はまかぜ号 | ならやま(奈良山公園) | 隔週火曜 14:50〜15:35 |