神奈川県立市ケ尾高等学校
青葉区のスポーツ

公立校が、8強に残った
市ケ尾高校野球部 創部53年目の夏

ホーム青葉区のスポーツ > 神奈川県立市ケ尾高等学校
2026年9月4日取材・文 横浜青葉チャンネル編集部

2026年の夏、市が尾駅から歩いて15分の県立高校が、神奈川の高校野球で8強に残りました。参加172校。ノーシードから5つ勝ち上がり、第2シードの相洋と第3シードの川和を倒しています。創部53年目で初めてのベスト8でした。準々決勝の相手は横浜高校。そのまま甲子園まで行った学校です。市ケ尾は4対11で敗れましたが、その夏に何が起きていたのかを、記録として残しておきます。

この記事のポイント

01

参加172校、ノーシードから8強へ

神奈川は全国でも屈指の激戦区です。2026年夏の参加は172校。市ケ尾はシード権を持たないノーシードで、初戦から勝ち上がって準々決勝に届きました。ベスト8に残った8校のうち、ノーシードから勝ち上がったのは市ケ尾だけ。公立校としても唯一でした。

02

第2シードと第3シードを倒している

2回戦の相手は第2シードの相洋。その相洋は春の県大会で東海大相模を破っていた学校です。エース大塚遼投手が156球を投げ切って6対5で勝利しました。5回戦では第3シードの川和を3対1。まぐれで上がったわけではないことが、対戦相手を見ると分かります。

03

公立校が、外部の専門家を入れていた

2021年ごろから、市ケ尾は外部指導者を導入しています。投手育成に長けたコーチ、打撃強化のコーチ、トレーナー、采配や戦略を見るコンサルタント。監督が一人で全部を見るのではなく、専門分野ごとに人を入れて任せる体制です。私学の強豪が当然のように持っている環境を、県立高校が用意していました。

04

145キロを打つ練習をしていた

準々決勝の相手・横浜高校は145キロ以上を投げる投手が何人もいます。その投手陣から市ケ尾は8安打を放ち、4点を取りました。日頃から145キロ以上の球を打つ練習を積んでいたそうです。負けた試合ですが、打線がどこまで仕上がっていたかはこの数字に出ています。

10年かけて、8強に届いた

市が尾駅から鶴見川を渡って坂を上がると、県立市ケ尾高校があります。徒歩15分。1974年にできた普通科の高校で、青葉公会堂や区役所と同じ、市が尾の生活圏のなかにある学校です。

その野球部が2026年の夏、神奈川大会でベスト8に入りました。創部53年目で初めてのことです。

神奈川の高校野球がどれだけ厳しいかは、参加校数を見ると分かります。2026年夏は172校。横浜、東海大相模、桐光学園、慶應義塾といった全国区の私学がこの1枠を争います。県内の公立校がベスト8に残るのは、それだけで珍しいことです。

市ケ尾はシード校ではありませんでした。ノーシードなので、初戦から勝ち続けるしかない位置です。ベスト8に残った8校のうち、ノーシードから上がってきたのは市ケ尾だけでした。

初戦の関東学院六浦戦は、序盤に3点を先に取られています。それを5回に4本の短長打で返して5対3の逆転勝ち。8回にはリリーフの中山優太朗投手が自己最速タイの145キロを3度も計測して、最後の打者を128キロのスライダーで抑えました。中山投手は入部したときの球速が116キロ、体重が60キロだったそうです。3年間で体重を20キロ増やし、慶大の投手のSNSを参考にトレーニングと食事を組み替えて145キロまで来ています。

2回戦の相手が第2シードの相洋でした。相洋は春の県大会で東海大相模を破っている学校です。ここでエースの大塚遼投手が156球を投げ切りました。4回と5回に3点を失って同点に追いつかれ、9回裏には満塁のピンチで1点差。一打サヨナラの場面から、内角へ強い直球を投げ込んで三振を奪い、最後はショートゴロで試合を終えています。大塚投手は最速144キロの右腕で、試合後は「156球を投げたことはないですし、こんなに苦しい試合は自分にとっても初めてでした。5失点してしまい、申し訳ない気持ちです」と話しています。勝った試合の後のコメントです。

3回戦は横浜氷取沢に8対0。4回戦の川崎工科戦は、1対1で迎えた6回に佐久間羚選手の中前適時打と溝口隆太選手の2点二塁打で一気に3点を取り、5対2で勝ちました。この試合の先発は山田想二郎投手で、6回1/3を4安打2失点。エース以外が投げて勝てるチームだったことが、6試合を通して大きかったと思います。

5回戦は第3シードの川和との公立校対決でした。大塚投手が6安打1失点で完投して3対1。3回に二死二塁のピンチがありましたが、「この打者は逆方向に距離が出ない」というデータをもとに低めへ投げてセンターフライに抑えています。準備してきたことがそのまま出た場面です。この勝利で、8強が決まりました。

準々決勝は7月21日、横浜スタジアム。相手は横浜高校です。編集部もこの試合を見に行きました。初回に4点を失い、3回までに6点。それでも4回と5回に2点ずつ返して、一時は4対6の2点差まで詰めています。最終スコアは4対11の8回コールド。横浜高校はこの大会を制して甲子園に行きました。

菅澤悠監督は2017年秋の就任でした。10年目の今年、2026年度での異動が決まっていて、この夏が最後の采配になることが大会前から決まっていました。

監督が変えたのは練習の中身です。「見栄えを良くしただけの練習から、試合のための練習になるよう物事の本質を捉えて取り組む」。公立校はグラウンドを他の部と分け合い、選手は勉強との両立もあります。時間が限られているぶん、待ち時間をなくすグループ分けとローテーション練習を入れて、スキルの習得と打撃の底上げに絞りました。夏に2年連続でベスト16、前年の秋には初のベスト16。段を一つずつ上がった先が、この夏の8強でした。

もう一つ、この10年で市ケ尾が変えたことがあります。2021年ごろから、外部の指導者を入れているのです。投手育成に長けたコーチ、打撃強化のコーチ、トレーナー、采配や戦略を見るコンサルタント。分野ごとに専門の人を入れて、それぞれに任せる形です。

これは公立校としては珍しい体制だと思います。私学の強豪には専門のスタッフがいて、それが力の差になっている。同じ形を県立高校でつくるには、外から人を呼ぶしかありません。菅澤監督がやったのは、自分が全部を教えることではなく、教えられる人を集めて配置することでした。8強の要因を一つ挙げるなら、この判断だと思います。

成果は打撃に出ました。準々決勝の横浜高校は、145キロ以上を投げる投手が何人もいるチームです。その投手陣を相手に、市ケ尾は8安打を放って4点を取っています。日頃から145キロ以上の球を打つ練習を積んでいたそうです。4対11というスコアだけを見ると力の差に見えますが、打線は通用していました。

「スター選手がいて急に強くなったわけではなく、10年間の積み重ねがあって1歩ずつ着実に力をつけたからここまでこれた。グラウンドや用具等の環境が整っていたことも、50年を超える歴史があったからこそ」。菅澤監督はそう振り返っています。当日は多くのOBが応援に駆けつけたそうです。

主将の平野遥大選手は「目標としていたベスト8を達成できて、とてもうれしく思う。仲間と最後まで全力で戦い抜き、このチームで高校最後の夏をやり切ることができた」と話しました。監督については「人として社会に出たときに困らないような、素晴らしい指導をしてくださったことに本当に感謝します」とも語っています。

もう一つ、この夏の記録に残しておきたい話があります。市ケ尾には3学年で1人だけマネジャーがいました。佐藤理咲さんという3年生です。ベイスターズのファンで、以前から「ハマスタで試合がしたい」と言っていたそうです。準々決勝の会場は横浜スタジアムでした。試合の後、佐藤さんは「試合がずっと楽しくて、ここまでやってきて良かった。ここに連れてきてくれてありがとう」と話しています。平野主将は「彼女が3年間やってきたことが報われて、本当にうれしい」と言いました。ベスト8に勝ち上がるということは、あの球場で試合ができるということでもあります。

監督は代わります。3年生は抜けます。公立校は監督が異動すると力が落ちることが多い、という話も現実にあります。

では新チームはどうか。8月の秋季地区予選は、武相・百合丘・横浜翠陵と同じブロックに入りました。初戦は百合丘に3対9で敗れ、2戦目は横浜翠陵に6対3で勝ち、最後の武相戦は1対2。武相はこのブロックを3連勝で1位通過した古豪です。市ケ尾は1勝2敗でブロック突破はできませんでした。

ただ、その武相に1点差です。夏のメンバーが抜けた直後の新チームで、ブロック1位のチームと最後まで競っている。数字は負けでも、中身は次につながるものだったと思います。

市が尾から歩いて15分の学校が横浜スタジアムに立った夏があったことは、この街の記録です。来年の夏、1年生と2年生がどこまで行くのか。青葉区で追いかける価値のあるチームだと思います。

2026年夏・市ケ尾の全6試合

第108回全国高校野球選手権神奈川大会(2026年7月)。出典:神奈川高校野球ステーション、日刊スポーツ、バーチャル高校野球、一球速報。
日付回戦対戦相手スコア球場
7月7日1回戦関東学院六浦◯ 5-3横須賀スタジアム
7月9日2回戦相洋(第2シード)◯ 6-5相石スタジアムひらつか
7月13日3回戦横浜氷取沢◯ 8-0相模原ギオンベースボールパーク
7月16日4回戦川崎工科◯ 5-2サーティーフォー保土ケ谷球場
7月18日5回戦川和(第3シード)◯ 3-1相模原ギオンベースボールパーク
7月21日準々決勝横浜● 4-11横浜スタジアム

新チームの秋(2026年秋季神奈川県大会 地区予選)

川崎・横浜北地区Iブロックのリーグ戦(4校)。市ケ尾は1勝2敗でブロック突破ならず。武相が3勝0敗で1位通過。出典:高校野球ドットコム、神奈川高校野球ステーション。
日付対戦相手スコア
8月15日百合丘● 3-9
8月16日横浜翠陵◯ 6-3
8月18日武相(ブロック1位)● 1-2

準々決勝のスコアボード(7月21日・横浜スタジアム)

8回コールド。市ケ尾は8安打2失策、横浜は11安打2失策。
チーム12345678
市ケ尾000220004
横浜41100401x11
2026年7月21日、横浜スタジアム。準々決勝を終えた市ケ尾の選手たち(編集部撮影)
2026年7月21日、横浜スタジアム。準々決勝を終えた市ケ尾の選手たち(編集部撮影)

この記事について

学校名
神奈川県立市ケ尾高等学校(普通科・全日制)
所在地
横浜市青葉区市ケ尾町1854
アクセス
東急田園都市線 市が尾駅から徒歩15分(市が尾駅8番のりば・市44系統「市ケ尾高校」下車すぐ)
創立
1974年
大会
第108回全国高校野球選手権神奈川大会(2026年7月7日〜26日・参加172校)
成績
ベスト8(準々決勝敗退)/6試合5勝1敗・チーム防御率3.44
シード
ノーシード(8強で唯一)
監督
菅澤悠監督(就任10年目・2026年度で異動のため今夏限りで退任)
体制
2021年ごろから外部指導者を導入(投手育成・打撃強化・トレーナー・戦略面など)
主将
平野遥大(3年・セカンド)
編集部は7月21日の準々決勝(横浜スタジアム)を観戦しており、掲載写真はそのときに撮影したものです。試合の経過と選手・監督の発言は、大会期間中の報道と公表記録をもとに構成しています。スコアは神奈川高校野球ステーション、日刊スポーツ、バーチャル高校野球、一球速報の各記録が一致した数字を採りました。学年はいずれも2026年夏の時点のものです。

あわせて読みたい

青葉区の新着ニュースを見る 祭り・盆踊りの日程